Notch受容体(Notch)を介する情報伝達系(Notch情報伝達系)は、細胞間の直接的接触による情報伝達に機能しており、多様な細胞運命の決定を制御しています。Notch情報伝達系を理解するためには、情報伝達経路の未同定な構成遺伝子の同定が重要な課題であると考え、ショウジョウバエの母性neurogenic遺伝子に注目しました。接合体性neurogenic遺伝子は、その突然変異体のホモ接合体において、Notch情報伝達系が機能しないときに特有な神経細胞の過剰形成(neurogenic phenotype)を示します。一方、母性neurogenic遺伝子では、その母性効果を除いたホモ接合体胚のみでneurogenic phenotypeが観察できます。接合体性neurogenic遺伝子の遺伝学的検索は十分に行われましたが、母性効果を除く操作が繁雑であるために、母性neurogenic遺伝子に関する研究は、今後の課題として残されています。 研究代表者は、本研究において、neuroticと命名した母性neurogenic遺伝子が、Notch情報伝達に必要不可欠であることを明らかにし、neuroticの責任遺伝子の同定に成功しました。その結果、neuroticは、Notchの細胞外ドメインに存在するEGF様リピートにO-結合型フコースを付加するGDP-fucose protein-fucosyltransferase(O-FucT-1)をコードしており、O-結合型フコース付加が、Notchの機能に必要不可欠であることを明らかにしました。さらに、NotchへO-結合型フコース付加が、リガンドであるDeltaと、Notchの間の結合に必須であることを示しています。この研究から、タンパク質への糖鎖付加による細胞機能制御の新しい側面を理解できると考えています。
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