本年度は主に我々が単離した新規核内因子Scad67の機能解析を集中的に研究した。その結果、Scad67がPML核小体の強力な誘導因子であることを見いだした。真核生物の核には、クロマチン、核小体、nuclear speckleなど微細なオルガネラが存在し、染色体の維持、転写、転写産物の加工などそれぞれの機能に応じた場を提供している。なかでもPML核小体は、直径約1-2umの球状またはドーナツ状の構造体である。そもそもSUMOはPML-bodyの重要な構成要素であり、SUMOタンパクはPML核小体のマーカーとして使用することができる。培養細胞において通常SUMO-1は核中に一様に存在し、細胞によっては少数の比較的小さい顆粒(直径0.1-0.5um)への集積が見られる。この状態でScad67を一過的に発現させるとSUMO-1が細胞内の複数の比較的大きな顆粒へ劇的に移行することが観察された。このとき、Scad67のSP-RINGに保存されたHis残基をAlaに置換すると、PML核小体の形成はまったく見られなくなる。このことは、Scad67によるSUMO化とPML核小体の形成には密接な関係があることを示している。 Scad67とは別のグループのSP-RINGタンパクにPIASという因子群が知られている。Scad67とPIASによるPML核小体の形成をさらに詳しく調べた。その結果、PML核小体のサイズ、個数、構成成分なとがScad67、PIASの種類に依存した特異性があることを見いだした。これらの結果は、PML核小体と転写制御を調べる上で非常に重要なきっかけとなるものと思われる。今後は、さらにPML核小体にフォーカスした転写調節機構の解析を続ける予定である。
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