本研究は(1)VGLUT2を発現する視床下部ニューロンのフェノタイピング、(2)ホルモン分泌神経終末内VGLUT2の超微形態的局在、(3)ストレス負荷によるVGLUT2遺伝子発現の変化を動物実験により分子形態学的に解析し、ペプチド作動性ニューロンにおける内在性グルタミン酸の分泌機構を明らかにすることを目的とした.課題(1)については、in situハイブリダイゼーション(ISH)と免疫組織化学により、バソプレッシン(VP)、オキシトシン、オレキシン及びプロオピオメラノコルチンニューロンにVGLUT2遺伝子発現を確認し、視床下部の特定ペプチド作動性ニューロンにおける内在性グルタミン酸の存在を示唆した.課題(2)については、蛍光2重免疫染色により下垂体後葉のVP分泌終末におけるVGLUT2の局在を同定したが、抗体の質的問題により終末内超微構造的局在は観察できなかった.課題(3)については(1)マウス拘束ストレス負荷実験と(2)ラット浸透圧ストレス負荷実験を行い、室傍核と視索上核における副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、VP及びVGLUT2について遺伝子発現の変化を定量的ISHと免疫組織化学により解析した.拘束ストレス負荷により、室傍核でCRH遺伝子発現は増加したが、VGLUT2遺伝子発現には変化が認められなかった.浸透圧ストレス実験では、飲水制限と高張塩水(2%NaCl)摂取による実験を行った.7日間絶水では室傍核と視索上核の全域でVGLUT2遺伝子発現が増加した.一方、塩水摂取4日及び7日では、室傍核と視索上核においてVPニューロンが局在する領域にのみ、有意な遺伝子発現の増加が確認された.以上の結果は、視床下部ホルモン分泌ニューロンの線維終末における小胞性グルタミン酸輸送体としてVGLUT2が存在し、その発現がホルモンの分泌状況に対応して遺伝子レベルで調節されることを示している.
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