研究概要 |
我々はラット上頚神経節(SCG)内にカルシウム結合蛋白の一つであるカルレチニンを含有する節前軸索終末があり、これが顎下腺に投射する節後ニューロンにシナプス結合していることを観察し、昨年度の実績報告に記載した。この調査観察途中でカルレチニン含有線維がGABA含む線維と異なる分布を示すことを発見し、研究の対象をGABA線維の分布について発展させた。GABA含有線維は交感神経幹中の小型強蛍光(SIF)細胞由来であろう、との報告がすでになされていた。しかし、このGABA陽性線維は、SCG内でかなり広い軸索終末展開を示しており、我々はGABA含有線維がSIF細胞由来ではなく、脊髄側角由来であろうとの仮説を立てて調べ始めた。節前線維マーカーとしての小胞性アセチルコリントランスポータ(VAchTと、GABA陽性終末のマーカとしてのGAD65を選び、SCGで二重染色を行なってみたところ、これら2種類のマーカーを含む神経終末は、ほぼ100%重なることが明らかとなった。我々はGABA陽性線維は節前線維であろうとの確証を強めたが、脊髄の節前ニューロンでGABAの免疫陽性反応を確認するのは困難であったため、前根切断実験によってSCG内のGABA陽性線維が消失することを調べた。C8からT4の高さの右側脊髄前根と脊髄神経節を切断、3日間生存させたのち、SCGをVAchTとGABAにて2重染色を行なった。対側SCGではVAchT、GABAともに通常の分布を示したのに対し、実験側では両者の陽性線維は極端に減少した。残ったGABA陽性線維は、その神経膨大部にてVachT陽性であった。また脊髄神経節をGABAで免疫染色を行なったが、陽性線維、陽性細胞ともに検出できなかった。これらから、GABA陽性線維は脊髄由来である可能性が極めて濃厚であると考えられた。 節前線維の一部のものはアセチルコリン(興奮性)とGABA(抑制性)の両方を同じ終末で持っていることになる。この相反的な物質は同じ小胞内に含まれているか、また、放出は同時か同時で,ないか。また、その機能的な意義については今後の研究で明らかにしたい。
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