本研究の目的は、我々が新規に見いだしたコリン合成酵素のスプライス異型(pChAT)を対象にmRNAスプライシング異型の局在を弁別検出するためのFRETを応用した組織化学法、すなわち「in situ FRET法」を確立し、組織特異的なChAT mRNAスプライス異型の発現パターンを形態学的に明らかにすることであった。まず初めに最適の研究対象臓器の選定のため、pChATの発現をタンパク質レベル(免疫組織化学)で検討し、脊髄後根神経節(DRG)、腸管神経節を研究対象とした。次に定量PCR法を基にして試験管レベルでのpChATに対するFRET法を確立した。これによりスプライス異型ごとの分別検出が可能であること、pChAT mRNAの定量が可能であることを示した。次にpChAT mRNAの「in situ FRET法」を試みた。従来のin situ hybridization法に準じてFRET用のハイブリダイゼーションプローブのペアをDRGと反応させ蛍光顕微鏡下で観察した。当初、FRETによる蛍光の観察は困難であったが、新規に導入された共焦点レーザー顕微鏡により、励起された蛍光から特定の波長の蛍光のみを分離して単一の画像とすること、さらに標本の特定の位置の蛍光シグナルを分光してスペクトロフルオログラムとして解析することが可能となった。FRET陽性構造が免疫組織化学法での陽性構造と類似し、蛍光スペクトルの解析でFRET特異的蛍光の明瞭なピークが認められたことからpChATに対する「in situ FRET法」の基礎条件は確立したものと考えた。引き続き諸条件の改良を試み、この試みの一つとして当初の計画になかった「in situ FRET法」と「PCR法」を組み合わせた新たな方法を試行した。この方法にてもFRETが生じていることを確認した。
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