研究課題
基盤研究(C)
本研究はアミロイド前駆体蛋白質(APP)が引き起こすニューロン死の分子機構に関する解析と、神経疾患プラダーウィリー症候群の原因遺伝子候補ネクジンの機能解析の二つからなっている。APPを過剰発現するとカスパーゼ3活性化を伴ったアポトーシスを誘導する。変異体APPを作製し、ヒトNT2ニューロンに導入しカスパーゼ活性化を検討した。その結果、βアミロイド領域を欠失したものでは、カスパーゼ3活性化を伴う細胞変性は殆ど起きなかったのに対し、カスパーゼによって切断されたAPPのN末端側断片ではカスパーゼ非依存的に細胞変性を引き起こした。以上の結果より、APP過剰発現によるカスパーゼ3活性化はβアミロイド領域に依存しており、活性化カスパーゼによって切断されたAPP断片のN末端領域はカスパーゼ非依存的な、ニューロン変性を引き起こすことが示された。またAPPを導入しカスパーゼ活性化に至る経路を検討した。APPを多量に、発現したニューロンでは細胞内のカルシウム濃度の異常な上昇と、カルパインの活性化を見いだした。またカルパイン阻害剤がカスパーゼ3活性化を抑制することを明らかにした。以上の結果からAPPは、ニューロン内でカルシウム濃度上昇を引き起こし、それがカルパイン活性化を引き起こす事、さらにカスパーゼ系の活性化、アポトーシスを誘導することを明らかにした。ネクジン遺伝子ノックアウトマウスの作製を行い、機能解析を行った。ノックアウトマウスは背根神経節で異常が観察された。またNGF刺激によるTrkAを介したリン酸化能が著しく低下していること、を見いだし、個体の神経においてネクジンがNGFによるシグナル伝達に関与していることが示された。ノックアウトマウス.では痛覚が鈍磨しており、末梢神経系のノシセプターにも異常が見られた。最後の所見は神経の遺伝疾患プラダーウィリー症候群の症状の一部と合致しており、ネクジンが原因遺伝子のひとつであることを強く示唆した。
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