研究概要 |
発達過程でのセロトニンニューロンの破壊が、豊かな環境での飼育により増強される記憶・学習に対して及ぼす影響ならびに新生海馬神経細胞に影響する効果について検討した。さらに、このセロトニンの効果が、直接、神経幹細胞に対し働くのかどうかを確かめるため、neurosphere法を用いて、細胞分裂および分化について検討した。生後3日齢SD系ネズミの大槽へ特異的セロトニンの神経毒である5,7-dihydroxytryptamine(5,7-DHT)を投与し,海馬内へ投射するセロトニン線維を破壊した。このネズミを豊かな環境(E group)および通常の飼育ケージ(S group)2群に分け5週間飼育しMorris水迷路課題を用い記憶・学習を解析した。さらにBrdUを投与し,海馬歯状回において新生される神経細胞をラベルし解析した。対照例としては、5,7-DHTの代りに生食を投与し,同様の飼育および処置を施したものを作製した。neurosphere法における検討は、新生仔マウスの側脳室外側部取り出し、EGF, bFGF存在下に培養し検討した。対照例ではE groupにおいて有意の記憶・学習の増強と新生細胞の増加が親察された。一方,5,7-DHT投与を施した例ではE groupにおいて有意の記憶・学習の増強が認められたが,新生細胞の増加は認めらなかった。新生神経細胞の数と記憶・学習の増強の関係から、新たに、ある一定数の新生細胞が存在する事が必要であるとする、basal number hypothesisを打ち立てた。また、neurosphere法における検討から、このセロトニンの効果が神経幹細胞に対しての直接作用ではない事を明らかにした。
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