γセクレターゼの基質であるAPPのアルツハイマー病突然変異がγ切断およびγ'切断に及ぼす影響について調べた。APP分子上のγ切断部位とγ'切断部位の近傍には複数のアルツハイマー病変異が存在し、いずれの変異もAβ42の産生を増加させる。この内の異なる位置に存在する3種類の変異をもつAPPをそれぞれ安定的に発現するCHO細胞株を作製し、cell-free系で産生されるAβとCTFγの分子種をWestern blot法および免疫沈降、質量分析法により解析した。プレセニリンと同様にAPPの場合も、アルツハイマー病変異があることにより CTFγ50に対するCTFγ49の割合が増加した。この時、変異の位置に関わらずCTFγ49の割合の増加が大きいほどAβ42の産生割合が大きくなり、γ切断部位に隣接しておりγ'切断部位から最も遠い位置にあるT714I変異でCTFγ49とAβ42の産生割合が最も高くなった。従って、γ'切断部位がγ切断に影響するだけでなく、2つの切断は相互に深く関係していることが示唆された。 幾つかの実験事実をもとにγ'部位での切断がγ切断よりも先に起こるという仮説を立て、これを検証するために、その場合に産生されるはずのAβ領域を含む長い断片を探索した。長いAβを検出するためにurea入りゲルを用いた電気泳動法の条件を改良して、種々の長さのAβ分子を1アミノ酸残基の違いで分離できる泳動システムを開発した。APPを発現するCHO細胞を可溶化し、細胞内Aβを免疫沈降してureaゲルを用いたWestern blot法で解析した。その結果、細胞内には通常見られるAβ42/43よりも長い幾つかのAβ分子種が存在することが分かった。このことから、APPのγとγ'切断部位の間には複数のγセクレターゼ切断部位があり、3アミノ酸残基ずつ連続的に切断されている可能性が示唆された。
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