研究概要 |
神経筋シナプス接合部の形成とその機能保持に、リセプター型タイロシンカイネース(RTK)であるmuscle specific kinase(MuSK)は重要な機能を果たしている。我々は、この機能とその異常による疾患について、これまで大きな成果をあげることができた。重症筋無力症(MG)は、シナプス接合部後膜のアセチルコリンリセプター(AChR)、さらにMuSKに対する自己抗体により、シナプスの機能不全を誘発して発症することが知られていた。我々はMuSK自己抗体の鋭敏な測定法を開発することにより、両方の自己抗体を有する患者が存在することを世界に先駆けて発見し報告した(Neurology.2004.in press)。さらに、リコンビナントMuSK細胞外ドメインを作成してウサギに免疫することにより、筋力低下など重症筋無力症様の症状を実験的に誘発することに成功した。したがってこのウサギのMuSKに対する自己抗体を精製して、MuSKの機能および重症筋無力症の分子病態について解析を行うことが可能となった。神経筋シナプス接合部では、運動神経終末から分泌されるヘパリン硫酸プロテオグリカンであるagrinによってMuSKが活性化されAChR凝集が誘導されるが、agrin非依存性の刺激によってもAChR凝集が誘導されることが知られていた。驚くべきことに、我々は上記の抗MuSK自己抗体が、agrin非依存性のAChR凝集も特異的に抑制することを発見した(論文投稿中)。さらにMG患者の抗MuSK抗体も、同様の活性を有することを発見した(論文投稿中)。我々の結果から、自己抗体によるMuSK機能異常によるAChR凝集阻害が,重症筋無力症の分子病態そのものであると考えられる。 今後、次のように研究を展開させる。すなわち、MuSKの機能をさらに解析するために、MuSK蛋白高次構造の解明を行っている。我々は、MuSK細胞外ドメイン蛋白の大量精製を確立した。そして、その結晶化のスクリーニングを進めている。またMuSKの機能をinvivoで明らかにすべくMuSK-LacZノックインマウスの作成解析を進めている。質量分析解析で明らかにしたMuSK関連シグナル伝達候補遺伝子の機能解析を行う。
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