パーキンソン病治療ために脳内へのチロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の導入が検討されているが、TH生合成終末産物であるカテコールアミンが細胞内に蓄積してTH活性を抑制することが問題点として挙げられている。本研究の目的は細胞内において高い酵素活性を発揮出来るTHを開発することである。 ヒトTH1型のN端領域のアミノ酸残基を、各種荷電を有するアミノ酸残基に置換した変異体を作製して、その酵素学的特徴を解析した。30-40位付近のアミノ酸残基を酸性アミノ酸に置換すると、カテコールアミンによるフィードバック抑制が低下した。中でも、Arg^<37>-Arg^<38>をグルタミン酸に置換した変異体では、フィードバック抑制が顕著に低下した結果、L-ドーパ合成能力が飛躍的に上昇することを明らかにした。 上記の種々TH変異体を培養マウス脳下垂体腫瘍細胞AtT-20に導入・発現させて、これらTH変異体の細胞内での挙動を解析した。元来THが内在しないAtT-20細胞へ、新たにTH変異体を導入するとチロシンからL-ドーパが合成され、次いでドーパデカルボキシラーゼによりドーパミンが合成される。合成されたドーパミンはTH活性を抑制するため、新たに導入されたTH変異体のフィードバック抑制に関する特徴を、細胞内において評価することが出来る。in vitroで観察されたフィードバック抑制に関する変異体の特徴が、AtT-20細胞内において再現された。すなわち、N端領域の特定部位のアミノ酸を酸性アミノ酸に置換することにより、カテコールアミンによるフィードバック抑制を受けにくい、細胞内で高いL-ドーパ合成能力を発揮することが出来るTH変異体を作製できることを明かとした。 本成果を雑誌論文の欄に示す英文論文に加え、米国神経科学会(2002)、日本神経化学会(2002)等の国際・国内学会にて発表した。
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