パーキンソン病の治療ために脳内へのチロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の導入が検討されているが、TH生合成終末産物であるカテコールアミンが細胞内に蓄積してTH活性を抑制することが1つの問題点として挙げられている。本研究の目的は、遺伝子治療に利用可能な細胞内において高い酵素活性を発揮出来るTHを作製することである。ヒトTH1型のアミノ酸置換変異体を作製後、その酵素学的特徴を解析して以下の結果を得た。 1.N端領域30-40位付近のアミノ酸残基を、種々の荷電の異なるアミノ酸残基に置換することにより、カテコールアミンによるフィードバック抑制を人為的に変化させることが出来た。 2.特に、アルギニン残基もしくはTHの活性制御に重要なリン酸化部位であることが報告されているセリン残基を酸性アミノ酸に置換した変異体は、カテコールアミンによるフィードバック抑制が減弱することにより、高いL-ドーパ合成能力を示した。 3.酵素の活性中心が存在するC端側のコンフォメーションに影響を及ぼすことなく、N端領域のアミノ酸残基を置換することが可能であった。 4.in vitroで観察されたフィードバック抑制に関する上記変異体の特徴は、培養マウス脳下垂体腫瘍細胞AtT-20細胞内においても再現された。 5.細胞内安定性に関して、上記変異体はAtT-20細胞のみならず、その他の種々の培養細胞においてもwild-typeと同様に高い細胞内安定性を示した。 以上の結果、N端領域の特定部位のアミノ酸を置換することにより、細胞内で高い酵素活性を発揮するTH変異体を作製出来ることを明らかにした。
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