脳の発達と機能維持におけるL-セリン生合成の生理的重要性の個体レベルによる検証

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14580756
• 研究機関: 独立行政法人理化学研究所
• 研究代表者: 古屋 茂樹 独立行政法人理化学研究所, 神経回路メカニズム研究グループ, 研究員 (00222274)
• キーワード: グリア / ノックアウトマウス / セリン / 神経栄養因子 / アミノ酸 / 神経幹細胞 / 細胞増殖 / 脳皮質形成

研究概要

申請者らは脳においては発達期から成熟期を通じて L-セリン合成に関わる「リン酸化経路」の第1段階酵素3-Phosphogllycerate dehydrogenase(Phgdh)がグリア細胞にのみ発現し、神経細胞では転写レベルで発現が抑制されている事を明らかにしてきた。このグリア細胞特異的なPhgdhの発現が神経細胞のL-セリン依存性を決定する根本的な要因であると推定された。本研究ではリン酸化経路による L-セリン合成の脳発達と神経機能発現における生理的意義を個体レベルで検証することを目的に、Phgdhノックアウトマウスを作製した。
キメラマウスに由来する修飾Phgdhアリルを持つマウスをEIIa-Creマウスと交配させることによってエクソン4及び5を脱落させたPhgdhノックアウトアリルを作製した。そのヘテロ個体間の交配により全身性Phgdhノックアウトマウスを得た。ノックアウトマウスは、胎生13.5日目前後で致死であり、Phgdh蛋白の発現は検出できなかった。L-セリンを、前駆体として合成される膜脂質ホスファチジルセリンや、ガングリオシド量が大幅に減少していることからPhgdhの欠失によってL-セリン量が大幅に低下していると推定された。ノックアウト胚は野生型と比較して体全体が小さく、脳の形態形成不全が顕著であった。組織学的解析から、大脳皮質は神経上皮幹細胞/放射状グリア細胞層が薄い小頭症を呈し、さらに嗅球、大脳基底核原基、および小脳が形成されていなかった。増殖細胞特異的核抗原の発現を免疫組織化学的に検討することによって、ノックアウト胚が示した小頭症は、神経上皮幹細胞の増殖能の低下に起因するものと考えられた。以上の結果から、Phgdhを介したL-セリン合成はマウスの胚発生及び脳の正常な発達、特に細胞増殖を伴った形態形成に必須であるということを初めて明らかにすることができた。

研究成果

• [文献書誌] Shimizu, M., Furuya, S., Shinoda, Y.et al.: "Functional analysis of mouse3-phosphoglycerate dehydrogenase(Phgdh) gene promoter in developing brain."J.Neurosci.Res. In press. (2004)
• [文献書誌] Mitoma, J., Furuya, S., Shimizu, M.et al.: "Mouse3-phosphoglycerate dehydrogenase gene : Genomic organization, chromosomal localization, and promoter analysis"Gene. In press. (2004)
• [文献書誌] Yamamoto, T., Nishizaki, I., Nukada, T., Kamegaya, E., Furuya, S., et al.: "Functional identification of ASCT1 neutral amino acid transporter as the predominant system for the uptake of L-serine in rat neurons in primary culture."Neurosci.Res.. In press. (2004)
• [文献書誌] Yoshida, K., furuya, S., Osuka, S.et al.: "Targeted disruption of the mouse3-phosphoglycerate dehydrogenase gene causes severe neurodevelopmental defects and results in embryonic lethality."J.Biol.Chem.. 279. 3573-3577 (2004)
• [文献書誌] Yamashita, N., Sakai, K., Furuya, S., Watanabe, M.: "Selective expression of L-serine synthetic enzyme 3PGDH in Schwann cells, perineuronal glia and endoneurial fibroblasts in rat sciatic nerves and its up regulation after crush injury."Arch.Histol.Cytol. In press. (2004)
• [文献書誌] Chen, N., Furuya, S., Shinoda, Y.et al.: "Extracellular carbohydrate-signal triggering PKA-dependent neuronal actin-reorganization."Neuroscience. 122. 985-995 (2003)