網膜神経節細胞の軸索は視蓋へ投射するが、前方の終脳へ侵入することはない。研究代表者は終脳由来分泌型CSPGsの糖鎖、chondroitin sulfate glycosaminoglycans(CSs)が網膜神経節細胞の軸索伸長を抑制し、終脳へ侵入することを妨げ、軸索路形成に寄与することを示した。 CSsは様々なタイプが区別されるが、その中でもD型CSは終脳間脳境界で帯状に分布した。培養実験において基質上に作成したD型CSのスポットはその境界で網膜軸索の侵入を効率よく阻止した。0%および4%のD型CSを含有するphosphacanスポットの網膜軸索伸長に及ぼす効果を比較した結果、D型CSが軸索侵入阻止効果を増強した。培地中に溶解したD型CSは軸索伸長に影響を与えなかったが、高濃度(1mg/ml)の培地中D型CSはD型CSスポットの軸索侵入阻止効果が抑制した。他方、培地中のA型CSはD型CSスポットの効果に影響しなかった。 生体内でのD型CSの機能を調べるために孵卵6日ニワトリ胚にD型CS溶液5μgを脳室内投与し、網膜軸索路をHRPによって順行性にラベルし、検討した。D型CSの投与によって、視索の最前方を走行する網膜軸索束が終脳間脳境界を越えて前方の終脳へおよそ80μm変位したが、A型CSまたはPBSの脳室内投与は前方変位を誘導しなかった。 以上の結果はCSの構造多様性が軸索路形成において機能特異性を担うことを示している。さらに網膜軸索は培養基質上のD型CSを他のタイプと識別し、成長円錐の振る舞いの違いに反映させることを示し、CSの構造多様性を受容する機構の存在を示唆する。
|