研究課題
基盤研究(C)
音の順序の弁別、学習は大脳聴覚野でおこなわれている可能性が高い。我々のラット聴覚野スライス標本による研究によれば、聴覚野の二カ所を時間差をつけてテタヌス刺激すると初めに刺激した経路にのみシナプス増強が起こり、この刺激順序依存性はムスカリン受容体に依存していた。我々は順序依存的シナプス増強が音順序学習の基礎となっていると仮説を立て、音順序学習に聴覚野のムスカリン受容体、コリン作動性入力が関与するか行動実験で検討し以下の結果を得た。1 ラットに二つの音の順序を弁別学習させるシステムを開発した。2 ムスカリン受容体拮抗薬であるアトロピンの腹腔内投与により音順序弁別学習は抑制されたが、血液脳関門不透過性のメチルアトロピンは効果がなかった。学習により上昇した順序弁別成績にはアトロピンの効果は認められなかった。これらより中枢のムスカリン受容体が音順序弁別の学習獲得過程に関与することが判った。3 コリン作動性ニューロンに免疫毒性をもつ192IgG-saporinを聴覚野に投与した動物では音順序弁別学習は抑制されたが、順序弁別に用いた要素音の弁別に対する効果はなかった。4 スライス標本実験でアトロピンで消失したシナプス増強の順序依存性はリノピルジン(認知促進剤)を同時投与すると回復する。192IgG-saporinを聴覚野投与したラットにリノピルジンを投与すると順序弁別学習の成績は回復した。これらより音順序弁別学習は聴覚野のコリン作動性入力、およびムスカリン受容体に依存していることが分かった。スライス実験と弁別実験の結果が良く対応していることから聴覚野シナプス増強の順序依存性が音順序学習のメカニズムの1つとして働いていると考えられる。我々の弁別テストでは報酬を用いているが、最近、音順序弁別学習が聴覚野へのドーパミン入力にも依存することを見いだした。音順序弁別学習に聴覚野のコリン作動性入力とドーパミン入力が共役して働いている可能性がある。
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