研究概要 |
目的:海馬歯状回の顆粒細胞層の内側では,成体になってもニューロンの新生が続いている。神経幹細胞の移植実験などからこの部位ではニューロン新生を調節する微小環境が存在することが推測されている。本研究ではニューロン新生時の細胞間相互作用について検討した。 対象および方法:生後6-12ヶ月令のWistar RatにThymidine類似物質のbromodeoxyuridine(BrdU)を投与し,1,3日目にラットを還流固定した。増殖細胞を抗-BrdUや抗-Ki67により,未熟なニューロンを抗-ポリシアル酸(PSA)により検出した。 結果:新生後1日目には,BrdU陽性増殖細胞はクラスターを形成した。この増殖細胞のクラスターの近傍には,先に分化したPSA陽性未熟なニューロンが2つの様式で存在していた:(1)増殖細胞と未熟なニューロンは一緒にクラスターを形成している(2)増殖細胞のクラスターに未熟ニューロンの水平な突起が接触している。新生後3日目には,増殖細胞の多くがPSA陽性の未熟なニューロンとなった。この新生後3日目のPSA/BrdU陽性細胞の周囲には,PSA陽性細胞(おそらく新生後3日以上たったもの)が存在し,クラスター内に突起を伸ばしていた。 結論:以上の結果からニューロン新生の過程を次のように推測した。分裂後,増殖細胞はクラスターを形成するが,まもなくニューロンに分化する。しかし分化後もしばらく(3日間ぐらい)の間クラスター内にとどまり増殖細胞と密着している。その後,突起をクラスター内に接触させたまま周囲に移動する。今後は増殖細胞と先に分化した未熟ニューロンの間で細胞間相互作用が起こっている可能性について検討したい。
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