研究概要 |
目的:一般に成体の脳ではニューロンの新生は起こらないが、海馬では例外的にニューロンが新生されている。この現象は神経組織の再生医療を考える上で興味深い。本研究では、神経前駆細胞の性質とその発生初期過程について検討した。 方法:生後2-6ヶ月のWistarラットを用いた。増殖性の神経前駆細胞の標識は、retrovirus-green fluorescent protein (GFP)の歯状回門への直接注入、およびBromodeoxyuridine (BrdU)の腹腔内投与によって行った。細胞の性質は、細胞分裂周期(Ki67)、アストロサイト(GFAP, S100β)、ニューロン(MASH-1,Hu, PSA)などの分子マーカーに対する抗体を用いた免疫組織化学によって検討した。 結果:新生後1-3日では多くの増殖性細胞はクラスターを形成していた。また、クラスターを形成している増殖細胞の多くは、アストロサイトやニューロンに対する分子マーカーを同時に発現していた。クラスター内で、新生細胞は突起を伸ばし、隣接した細胞に接触していた。その後、細胞周期から抜けた新生細胞は、クラスター内の細胞との接触を保ちながら主に水平方向に移動した。新生後5-7日目には、新生細胞の多くはクラスターから周囲へ移動していたが、 結論:成体海馬で活発に増殖している神経前駆細胞の大部分は、アストロサイトとニューロンのマーカー分子を同時に発現している特殊な細胞である。神経前駆細胞の増殖と分化には細胞同士の接触が重要な役割を果たしているのかもしれない。
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