研究概要 |
本研究は、他者と注意を共有する共同注意に関わる脳内過程を検討するために、注意転換を促す刺激として目(視線)のパタンや指さしのシンボルを用いて、fMRIによる脳機能計測を行った。 初年度(14年度)は、目と矢印をキューとした注意転換実験を行った。キューの種類(目、矢印)、キューとターゲットの時間間隔(SOA:100,500msec)を変数として解析したところ、目のSOA=500msec課題において、左中心前溝および上頭頂小葉の活動が検出された。SOA=500msecでは、シンボルの形によらず、キューの向きとターゲットの位置が一致した場合の反応時間の加速が減少するが、目のパタンによって運動への注意や準備に関わる前頭頭頂関連部位の活動が喚起されたことで、目のパタンは(抑制が必要なほど)より強い注意転換を喚起している可能性が示唆された。 次年度(15年度)は、キューの向きとターゲットの位置の一致度に応じた脳活動を解析するために、event-related analysisを実施した。キューとターゲットが一致している目のSOA=100msec課題では左中心前溝が、一致していない目のSOA=500msec課題では、右の中前頭回および下頭頂小葉が有意に活動していた。矢印よりも目の方が強い注意転換を喚起し、SOA=500msecではそれを抑制する脳活動が生起していることが確認された。 最終年度(16年度)には、指さし記号と矢印を用いて、初年度と同様の実験を行ったところ、指さし記号においても目と同様の結果が得られた上に、その反応時間および脳活動に性差が検出された。指さしによる注意転換の場合、男性においてはSOA=100msec課題でも抑制されていることが示唆された上、男性においては情動に関連した扁桃核の活動が、女性においては眼球運動に関与するとされるレンズ核の活動が検出された。男性においては、指がさしている向きに意味がない場合にはそれを容易に無視できること、指さし記号によって男性には情動反応が、女性には共同注視が喚起されることが示唆された。 3年間の研究によって、視線や指さし等の、他者と注意を共有する際に用いられる視覚刺激は、矢印やその他の人工的視覚刺激とは異なる脳内活動を引き起こす可能性が示された。更に、これらの刺激に対する性差の存在も明らかになった。注意を喚起するためのシンボルはあらゆる場面で用いられるが、場面や目的に応じたわかりやすいシンボルを考えるうえでも、本研究の成果は参考になると思われる。
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