Naxイオンチャンネルは、培養系での機能的発現ができないために生理的役割が不明な分子であった。我々はNa_xの生体内での機能解明を目指して遺伝子欠損マウスを作製した。その結果、Na_x遺伝子欠損マウスは高張塩水を異常摂取することが判明した。中枢神経系におけるNa_x遺伝子発現は、脳弓下器官、終板脈管器官といった脳室周囲器官及び一部の神経核に特異的であった。c-fosの発現を目安に、遺伝子欠損マウスの中枢神経系における神経細胞活動レベルを解析したところ、これら脳室周囲器官に過剰な活動が検出された。これらの器官は体液塩分濃度の中枢受容部位であり、食塩摂取行動を制御していると考えられている。すなわち、Na_xは脳室周囲器官の塩分濃度検出機構に密接に関与しており、塩分摂取行動の中枢制御に重要な働きをしていると考えられる。さらにイオンイメージング法を用いることによって、細胞外液のNa^+濃度を5〜15mM上昇させた場合に、Na_xによると思われる細胞内Na^+濃度増大がNa_xを発現している神経細胞に観察された。細胞内Na^+濃度増大は、浸透圧刺激では引き起こされることのないことから、細胞外ナトリウムに特異的な現象であった。また遺伝子欠損マウスの細胞では、このような現象は観察されなかった。遺伝子欠損マウスの細胞にNa_x発現ベクターを導入すると、こうしたナトリウム感受性が回復した。これらの結果から我々は、Na_xは「細胞外ナトリウム濃度依存性」という全く新しい特性を有するナトリウムチャンネルであり、中枢神経系において体液ナトリウム濃度を感知するナトリウムセンサー分子であると推察している。今後、細胞培養系でNa_xのさらなる詳細なチャンネル特性の解明に当たりたい。
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