ヒトやサルが行う上肢による到達運動には脳内における視覚情報から運動情報への変換が必要である。これまでの研究により、座標変換系として運動前野腹側部が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきたが、本研究では座標変換系における学習系として小脳から運動前野腹側部への経路がどのような機能を果たしているかを調べるため、以下の実験を行った。第一に、プリズム適応に特異的変化をする運動前野腹側部ニューロンを同定し、その存在部位に標識物質(BDA)を注入し、この領域に投射する視床核が主に領域Xであることを確認した。第二に、運動前野腹側部および他の皮質運動関連領域に投射する視床ニューロンが視覚運動変換に際してのニューロン活動を記録・会席した。実験ではニホンザルに手首の屈曲・伸展運動を示す視覚指示信号を呈示し、1.5-3.0秒の準備期間の後、運動の契機となる視覚信号を呈示した。サルは契機信号に応答して正確な運動を行うよう訓練した。訓練終了後、皮質領域に刺激電極を埋め込み、領域Xを含む視床腹側核群を中心に記録を行い、逆行性同定により皮質領域への投射を確認した。さらに、視床腹側核群から運動の直前に活動を開始する運動関連活動と、準備期間に視単指示信号に応答して持続的に発火の変化をする準備関連活動を記録したが、視覚信号に一定の潜時で短時間応答する信号関連活動はほとんど記録されなかった。準備関連活動と運動関連活動のうち、一次運動野に投射するニューロンは行うべき運動の方向などのパラメーターに関与するものが多かった。他の領域に投射するニューロンは運動のパラメーターへの関与が少なかったが、一次運動野への投射ニューロンより活動の変化が早く起こっていた。この結果は、小脳大脳機能連関が座標変換系として運動のパラメーター生成と運動開始のタイミング生成に主要な役割を果たしていることを示唆すると考えられる。
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