研究概要 |
本研究では、申請者が開発した実験系(Kakei et al. Science,285,1999)を用いて、運動指令生成に際してサル運動領野間を結ぶ皮質-皮質投射ニューロンがコードする運動パラメータ(位置・速度・加速度・力及びこれらの線形和)とその座標系(空間座標系、関節座標系、筋肉座標系)を同定し、運動指令が生成される連関協調過程のダイナミクスを解明するのが目的である。以前の実験では手首運動に関連する3つの座標系を分離できる課題の開発に成功したが、その座標系上での運動パラメータの分離、例えば運動のキネマティクスとダイナミクスの分離は困難であった。これは、本の内容に例えれば、ジャンルは分かるが中の文字が読めないので肝心なところが理解できないのと似た状況である。そこで本研究では運動のキネマティクスとダイナミクスを分離できるようにマニピュランダムを改良することが必須の要件となった。初年度は、新型マニピュランダムを開発し、同マニピュランダムを用いた手首運動課題を一頭のサルに習得させ、筋電図を記録し、筋肉座標系のより完全な記述を行った。その結果、筋肉座標系が運動のキネマティクスとダイナミクスに共通していることが明らかになった。これは、運動のキネマティクスすなわち位置の制御と力の制御が同じ座標系の上で制御されているという全く新しい運動制御の可能性を示唆した。一方、平成15年度は一次運動野及び腹側運動前野からニューロン記録を行った。その結果、腹側運動前野における空間的な運動指令の表現が、一次運動野において筋肉座標系の運動指令に変換されることが初めて明らかになり、そのモデルを提案した。
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