個体発生の過程において、中枢と末梢とを結ぶ入・出力の終止・起始核である脳幹神経核が、どのようなプロセスで機能的に形成されていくのかは、中枢神経系の機能的構築を理解する上で、最も基本的な問題点の一つである。我々は、中枢神経系の機能形成/構築過程を明らかにする目的で、膜電位感受性色素とニューロン電位活動の光学的多チャネル計測法を発生初期の鶏胚・ラット胚に適用し、個体発生に伴う神経回路網の機能的システム構築と、それに関わる受容体の機能的発現過程について解析を行っている。本研究では、ラット胚脳幹における三叉神経核の機能的形成過程について解析を行った。膜電位感受性色素で染色したE12-E16のラット胚脳幹において、眼神経(V1)、上顎神経(V2)、下顎神経(V3)を別々に刺激し、得られた光学的シグナルのマッピングから三叉神経主知覚核、脊髄路核を同定した。各神経刺激により活動電位はE13から誘発されたが、EPSPはE15になって始めて観察された。E14では、normal Ringer液中ではEPSPは観察されなかったが、外液からMgイオンを取り除くと小さなEPSPが誘発された。電子顕微鏡を用いた形態学的観察では、E16においても神経核に明らかなシナプスは観察されず、発生初期にはいわゆるシナプス構造がなくとも、神経伝達がなされていることが示唆された。さらに、3本の感覚神経の応答領域を比較した結果、これらの応答領域には、この時期すでにsomatotopyが存在することが示された。
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