神経興奮により中枢の細胞が膨張(あるいは細胞外空間量が減少)することは以前から知られてきた。 細胞組織の膨張は無染色切片では、内因性光応答と呼ばれる光散乱の変化として表れると考えられる。 これまでの報告や我々の実験結果より、furosemide感受性のcation-chlorideトランスポーターが内因性光応答の発生に関与していることが分かっている。このトランスポーターには、Na-K-2ClとK-Clの2種類あり、さらに後者には4つのタイプ(KCC1〜4)があることが知られている。 今年度も、昨年度に立ち上げた冷却型デジタルCCDカメラシステムを用い、引き続きトランスポーター同定の実験を行った。実験では潅流液のK^+濃度を変化させ、その時に発生する内因性光応答を記録した。得られた結果は以下の通りである。 1.K^+濃度を50mMにすると、内因性光応答は非常に速く発生し、ピークに達した後、応答は小さくなった。Na^+チャネル阻害薬の存在下でも、応答の立ち上がりはゆっくりだがピークに達した後、同様に小さくなった。 2.K-Clトランスポーターにはシステイン残基をアルキル化する薬品N-ethylmaleimide(NEM)により活性化されるものがあるが、NEMは細胞の膨張そのものを阻害してしまったため、トランスポーターへの作用を見ることはできなかった。 3.K^+イオンの輸送をすると考えられる内向き整流性のK^+チャネルの阻害薬を投与しても、内因性光応答はあまり変化はなかった。 以上の結果より、20mMK^+までは内向き整流性のK^+チャネルではなくトランスポーターによるK^+イオンの取り込みが行われ、細胞の膨張が起こるといえる。昨年度の実験結果と総合すると、脊髄後角においてはK-Clトランスポーターが神経興奮に伴う細胞の膨張に関与しており、さらに神経細胞に特異的に発現しているKCC2の可能性が示唆された。
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