研究概要 |
皮膚末梢から脊髄後角に至る侵害情報は後角第II層(膠様質)において興奮性および抑制性シナプス伝達の働きにより修飾されることはよく知られている。今年度は、成熟ラット脊髄スライス標本の膠様質ニューロンにブラインド・パッチクランプ膜電位固定法を適用し、内因性カンナビノイドであるアナンダミド(ANA)と2-アラキドノイルグリセロール(2-AG,20μM)そしてカンナビノイド受容体作動薬であるWIN-55212-2(WIN-2,5μM)がGABAおよびグリシン作動性の抑制性シナプス後電流(IPSC)にどのような作用を及ぼすかを調べ、次のことを明らかにした。(1)ANAは神経刺激誘起IPSCの振幅を抑制した。(2)この作用は1〜5μMの濃度範囲で見られた。(3)2-AGやWIN-2はANAと同様な抑制作用を示した。(4)ANA(10μM)作用はカンナビノイド受容体阻害薬であるSR141716A(5μM)により拮抗された。(5)ANA(10μM)投与により2発刺激によるIPSCの振幅比は増加した。(6)ANAは自発性IPSCの振幅を変化させずに発生頻度を抑制した。以上の結果は、脊髄膠様質においてカンナビノイドは神経終末に存在するCB1受容体に作用して抑制性シナプス伝達を抑制することを示している。この作用はカンナビノイドの痛覚情報伝達の修飾作用に寄与すると考えられる。 昨年度の結果を併せると、カンナビノイドは興奮性と抑制性の両方のシナプス伝達に作用して痛み情報伝達を制御すると結論される。 なお、カンナビノイド輸送体の阻害剤として知られているAM404(30μM)の作用も調べ、これはカンナビノイド作用を促進するのではなく脊髄膠様質のVR1受容体に作用して興奮性シナプス伝達を促進することを明らかにした。
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