研究概要 |
デュシャンヌ型筋ジストロフイー(DMD)の原因遺伝子であるジストロフィンは,全長2.4MBにも及ぶ巨大な遺伝子であり,このような巨大な遺伝子を通常の遺伝子操作により細胞内に導入することは.ベクターに組み込む遺伝子サイズの制約によりきわめて困難である。本研究は,ヒト染色体の断片を転座させた人工染色体をマウス胚幹細胞に微小核融合法を用いて直接導入しヒト染色体の一部を保持したマウスを作成するという新しいアプローチにより,DMDのモデル動物の作成やDMD遺伝子治療のための染色体ベクターの開発のための基礎的な研究を目的としたものである。 初年度の研究では,DMDモデルマウス作成やDMD遺伝子治療のための染色体ベクター作成の第一歩となるジストロフィン遺伝子を連結した人工染色体作成について研究を行った。ヒトジストロフィン遺伝子近傍の塩基配列の情報をもとに,ジストロフィン遺伝子領域(2.3Mb)だけをヒトX染色体より切り出し,入工染色体HAC-SC20に転座させた染色体ベクターHAC-SC20-dysを作成した。次年度では,ジストロフィン遺伝子だけが「ヒト」化した新しいモデルマウスの作成のための基礎的な研究を行った。1)エクソン23における点突然変異によりジストロフィン遺伝子が発現しない突然変異系統であるmdxマウスに由来するES細胞株mdx-1を新規に樹立した。2)このES細胞株は,高いキメラ形成能があることを確認し,GFP遺伝子で標識することによりキメラ個体を解析する実験系を確立した。3)ミクロセル融合法によりHAC-SC20-dysを導入することにより,本人工染色体ベクターを保持する多数のmdx-1ES細胞株を分離した。これらのES細胞株とmdxマウス胚盤胞を用いたキメラマウスを作成し,現在,その表現型を解析中である。本研究により,ヒトジストロフィン遺伝子のみが発現するマウス作成のための基本的な実験系が確立したと考えられる。
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