目的:中枢神経細胞は虚血に対して極めて脆弱であることが知られているが、虚血に抵抗性があると言われているグリア細胞の虚血時における機能変化に関してはあまり調べられていない。そこで、虚血中におけるグリア細胞の電気特性や化学受容性の変化を調べる目的で研究を行なった。本年度は虚血負荷による細胞膜電位・膜特性の変化について実験を行なった。 方法:新生ウイスターラット大脳皮質よりグリア細胞(アストロサイト)を分離し、一ヶ月間培養を行なった後、再度分散し、カバーグラス上に培養したものを標本として用いて、以下の実験を行なった。(1)培養グリア細胞を倒立顕微鏡下に置き、人工脳脊髄液(正常細胞外液)で灌流する。次にパッチクランプ法を用いて単一グリア細胞に電極を当て、膜電位を固定した後、細胞外液を虚血液(無酸素・無グルコース液または代謝阻害剤・無グルコース液)に交換した際に発生する膜電流変化を測定する。(2)虚血負荷によって発生した膜電流のイオン機序や薬理学的特性について調べる。 結果:培養グリア細胞に虚血液(代謝阻害剤CCCP・無グルコース液)を灌流投与すると、直後に一過性の内向き電流が発生し、それに引き続き、緩徐な外向き電流が発生した。これらの電流について解析した結果、一過性内向き電流の逆転電位は-40mV付近に、緩徐外向き電流のそれは-80mV付近に存在することが判明した。従って、その逆転電位より、一過性内向き電流はクロライドイオンによって、緩徐外向き電流はカリウムイオンによって発生している可能性があることが解った。また、無グルコース液単独では膜電流変化は現れず、CCCP液単独投与は無グルコース液との同時投与の場合と殆ど変らなかった。以上の実験結果は、虚血負荷は神経細胞のみならず、グリア細胞機能にも早期から影響を与えることを示唆する。
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