Tsc2ノックアウトマウスより樹立したtuberin欠失腎腫瘍細胞(MKOC1-277)にtuberinを発現させた細胞株(T2株)の樹立を行った。空ベクターのみを導入した細胞株(E株)に比して、T2株においてはp70 S6キナーゼ(S6K)の活性が抑制されていることが明らかとなった。MKOC1-277はヌードマウスへの皮下移植で造腫瘍性を示すが、E株ではそれが保持されているものの、T2株では完全に抑制されることがわかった。またMKOC1-277の造腫瘍性はmTOR-S6K経路の抑制剤であるラパマイシン投与により、完全に抑制されることもわかった。これらの結果から、tuberinの機能の一つにはmTOR-S6K経路の抑制があり、その機能欠失が腫瘍増生に関わっていることが示唆された。また、TSc2欠失細胞で強発現するErc/mesothelin遺伝子がT2株では抑制されること、ラパマイシンではErcの抑制は認められないことがわかった。このことから、tuberinはS6Kとは異なる経路において機能を発揮することが予想された。Hela細胞に対するシグナル伝達阻害剤処理ではERCの発現は大きな変動を示さなかったものの、血清飢餓条件においてプロテアーゼ切断遊離型(約33kDa)ERC産物が増加する傾向を見出した。これらの結果から、Erc/ERCの発現・機能の制御にはmRNA量と共に蛋白レベルでの修飾が重要であり、Tsc2欠失によって何れかの機構に変化が生じているものと考えられた。またTuberinのRapl-GAP相同領域を含むC末端側約400アミノ酸残基をbaitとし、酵母two-hybrid法によりmyomegalinとγ2-adaptinをtuberin結合蛋白の候補として同定した。
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