研究概要 |
酸化物高温超伝導体では,キャリア供給層として電荷溜の役割を果たすブロッキングユニットが非常に重要な役割を果たす。現在のところ発見されている高温超伝導体の同ユニットは,Bi, Tl, Pb, Hgで構成されているものが主である。超伝導転位温度T_cが更新されていない現状では,さらに高いT_cをもった物質の合成を目指すために,新たな元素で構成されたブロッキングユニットを発見することが重要であると考えられる。 本研究では手始めに高温まで雰囲気制御が可能な雰囲気調整炉を作製した後,上記の目的を達成すべく実験を開始した。まず,最近発見された高いT_cを示すRu系の高温超伝導体群に着目し,その物質群と同じRuで構成されるブロッキングユニットをもつ,未発見の物質の探索を行った。その結果,世界で初めて,1232構造をもつRu系の層状銅酸化物の合成に成功した。さらに,構成元素を精密に組成調整した結果,15K以下の温度で超伝導に由来すると考えられる抵抗の減少と,反磁性を観測した。これらの事実からRu系1232相はT_cが15K程度の超伝導体であると考えられ,そうであるとすると,結晶構造中に最多のフルオライト層数を含む酸化物超伝導体となる。さらに,1222相の低T_cの要因が単位胞にある上下CuO_2層中のCuイオンの"ずれ"にあり,この"ずれ"が解消される1232相ではT_cが上昇するという予想があったが,この1232相のT_cの方が1222相に比べ低いという予想とは逆の実験結果を得た。これらの実験事実は,酸化物超伝導体の結晶構造とT_cとの相関という観点において,新たな知見を提供することになるものと考えられる。さらに最近,Mo, Nbで構成されるブロッキングユニットを持った1232相の合成に成功した。またBi-Sr-La-Cu-O系のブロッキングユニットのBi_2O_2を構成するBiをPbで部分置換することによって,超伝導を示す2212相の合成にも初めて成功した。現在,新しい酸化物超伝導体を合成するために有用となるさらに多種のブロッキングユニットの発見に努めている。
|