細胞外マトリックスは、細胞や組織・器官を物理的に支持し、細胞表面のレセプターとの結合を介して細胞死を回避し、増殖・分化等細胞機能を制御する。また、この細胞外マトリックスには、様々な増殖因子やその他の液性因子が結合し、マトリックス蛋白質と協調して、細胞の増殖・分化や組織の再構築を制御していることが知られている。我々は、この細胞外マトリックスと増殖因子の協調作用に注目し、積極的に増殖因子等の液性因子を細胞外マトリックスに不溶化することにより、より効率的に細胞機能を制御する人工マトリックス構築法の開発を進めている。本研究では、強い線維化抑制と組織再生の活性を持つ肝細胞増殖因子HGFに着目し、HGFを組織・器官の基底膜に選択的に不溶化する方法の検討を行った。具体的には、アグリンのN末端ドメインがラミニンと特異的に結合することを利用し、HGFとのキメラ蛋白質を遺伝子工学的に作製した。このキメラ蛋白質は、HGFがもつ生物活性を保持している一方で、アグリンのN末端ドメインを介してラミニンと結合し、基底膜に不溶化されることが確認された。さらに、このキメラHGFは、培地に添加するだけで、選択的に細胞周囲の基底膜成分に固相化され、そのような活性を持たないHGFに比べて活性がより持続的に発現することが示された。このような基底膜組込型HGFは、活性持続型の高機能HGFとして、現在臨床治検が始まっているHGFにとってかわって再生医療や組織工学に利用される可能性を秘めている。
|