研究概要 |
顎関節の咬合状態の不良に起因する関節の摩擦の上昇が,顎関節症の発症に関与する可能性があることは,臨床観察から推定されていた.しかし,咬合状態が悪いとどの程度の摩擦が発生するのかを測定した報告はなかった.そこで,本年度の研究では,ブタ顎関節を対象とした摩擦測定実験を行った.摩擦測定システムを,アーム型ロボット,6軸力センサ,ドライブユニットおよびパーソナルコンピュータにより構築した.下顎骨をアーム型ロボットの先端に,下顎窩を6軸力センサに固定した.摩擦速度は0.5mm/sとした.垂直荷重は15Nとした.荷重を加えてから一定時間の後に,前進,後退運動を行い,その際の摩擦を測定した.3つの試料において5回測定し,その平均をとった.手探りで摩擦試験をした感覚と,関節間に感圧フィルムをはさみ20Nかけたときの圧力分布から咬合状態を調べ,基準位置とした.この地点から前進後退の直線滑り運動を加え摩擦係数を測定した.次に,基準位置から内外側方向に1mmずつ下顎骨を変位させて摩擦測定を繰り返し,感圧フィルムで測定した圧力分布との比較を行った.最も生理的に自然な咬合状態の時には,摩擦係数は,0.02-0.04であった.また,咬合面の接触応力分布は,比較的均一であった.その値が,下顎骨が内側または外側方向に数mm移動すると摩擦係数が増大し,0.1を越えた.この実験結果から,顎関節の摩擦面においては,咬合状態のわずかな変化で大きな潤滑機能の変化を発生することがわかった.また,高い接触応力部分が偏在することが,大きな摩擦を発生させることから,関節軟骨の潤滑における流体潤滑機構の占める役割の大きいことが示された.
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