研究概要 |
1.TiNi合金の腐食電位・電流計測とカソード防食効果の確認 TiNi形状記憶合金は成分重量比がTi:Niが49:51でほぼ等量である.Tiに比べNiの溶解電位は低いため,低電位でまず金属表面近傍のNiが溶出し,高電位になるにつれてNiとTiの溶出割合が接近する.そこで,温度37℃のPBS(-)擬似体液100ml中でTiNi合金を作用電極,白金を対電極,水銀電極を参照電極とし,参照電位-1.0V(vs.SCE)から+1.0V(vs.SCE)まで一定電位を1時間作用電極に負荷し,通電終了後に溶出したTiとNiイオン濃度をICP分析した.-0.3V(vs SCE)まではNi,Ti共に金属溶出はなく,カソード電位下で防食効果が認められた.PBS溶液中のNiTi合金の自然分極電位は-0.2から-0.3V(vs SCE)であった.溶出傾向はNiが大半で,Tiはほとんど溶け出さなかった. 2.Pin-on-Disk摩擦試験下におけるカソード防食効果の確認 整形外科領域で使用されるインプラント金属(例えば骨折固定具や人工関節,など)は力学的に過酷な環境に晒されることが多い.耐食性に関しては摩擦環境が最も過酷である.また,臨床的にもインプラント金属の様々なトフブルは摩擦・摩耗に原因することが多い.そこで,Pin-on-Disk摩擦試験によって不動態被膜に絶えず損傷を加えつつ,カソード防食の効果を評価した.Disk試験片はφ50mm,Pin試験片はφ10mm×40mmの円柱.Disk試験片はUHMWPEとTiNi合金の2種類,Pin試験片はTiNi合金を用いる。Pin試験片は摩擦面1cm2を除きPA樹脂で側面を絶縁する.ポテンショスタットを用いて1で求めたカソード防食電位をPin試験片(作用電極)に負荷し摩擦試験を行う.摩擦速度は3.6,24.5,108mm/sの3種類,荷重は5Nから150Nまでの10段階とする.カソード分極には現有のポテンショスタットの3電極法で行い腐食電流密度を計測する.負荷電圧と電流密度から単位表面積を防食するのに要する電力量を算出する.また,摩擦試験終了後に溶液中のTi,Niイオン濃度をICP分析して溶出の有無を確認する.不動態膜損傷度を摩擦有りの自然分極電位を摩擦しないときの分極電位で除してそのときの電位低下率で評価した.不動態膜維持脳はTi-6Al-4Vに比して良く,特に高速度)108mm/秒の摩擦速度で顕著で,金属溶出量も少なかった.
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