研究概要 |
【実験1】純NiおよびNiTi合金のin vitro毒性試験 (方法)インプラント金属の体内腐食メカニズムを解明することを目的に,L929線維芽細胞(接着性細胞)とU937ヒト胸腺由来マクロファージ前駆細胞(浮遊性細胞)を試験金属平板上に1×10^3〜5×10^4cells/wellで播種し,48時間37℃,5%CO_2インキュベータにて培養した.その後,培養液を回収し,培養液中に溶け出した金属イオン量をICP分析した.また,細胞毒性の指標としてLDH活性を測定した. (結果と考察)L929細胞は試験片表面にファイブロネクチン等の接着性物質を細胞が分泌し,それを足場として細胞が着床する.一方,U937は試験表面に接着することなく培地中を浮遊する.L929細胞を用いた場合はU937細胞に比べて有意に金属溶出量が多く,LDH逸脱量の測定結果からも細胞毒性が強いこのが確認された.また、細胞播種濃度が高いほど金属溶出,LDH共に高値を示した.特に,純Ni試験片では顕著な腐食が認められ,接着性細胞が金属の腐食に大きく関与することが確かめられた.U937浮遊細胞を用いた同様の試験では金属溶出は細胞を含まない時と溶出傾向に変わらなかった.また,L929着床後(播種後6時間)に細胞を10%フォルマリンで固定し,生理機能を停止させるときんぞくの溶出は起こらなかった.これらの2種類の細胞を用いることによって生体内の金属腐食メカニズムがある程度推定できる. 【実験2】純NiおよびNiTi合金のin vivo毒性試験 (方法)純Ni,NiTi合金φ0.5mm×15mm線をラット大腿骨に沿って外骨膜上に,2〜8週間埋植して骨および周囲組織に与える影響について観察した.また,供試材を作用電極,同径の白金線を対極にして1.5Vのカソード電圧(銀/酸化銀電池)を負荷し,同金属を防食した.それぞれの防食効果を組織学的に検討した. (結果と考察)未処理の純Ni線の周囲には厚い(1〜1.5mm)炎症性の皮膜が形成された.また、その組織中にはおおくも異物巨細胞の存在が確認された。金属線近傍の骨への影響は見られなかった.一方,NiTi合金線の場合はカソード防食処理を施さなくても目立った炎症反応は見られず,埋植後2,4週では仮骨形成があるものの8週ではかなり成熟した骨組織で覆われ,安定した状態が観察された.長期にカソード防食を維持するためには電池とリードせんの絶縁性を良好に保つ必要がある.今回はエポキシ樹脂で電池とリード線を包埋し,完全埋め込み型にしたが,絶縁不良から断線例が数多く見つかった.カソード防食を行うにあたっての今後の課題である.
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