研究概要 |
天然の動脈は3層構造をとっており、内側から内皮細胞で覆われる内膜、平滑筋細胞と弾性線維のある中膜、そして一番外側に存在する外膜から構成される。ところが、布製人工血管を生体に植え込むと、遠隔期になっても内皮細胞で全長にわたって被覆されることが無く、弾性線維が観察されることは少ない。組織工学の技術を用いれば、単なる導管を植えても、植え込み後に経時的にリモデリングして血管壁が三層に再構築され、天然の血管と同様に構築された人工血管が得られ、生体にとってより生理的に機能することを期待した。本研究において人工血管植え込み後の治癒不全を改善するために細胞、サイトカインおよび細胞外マトリックスの割合、構成、等を検討することとした。組織内培養として家兎の耳介に観察窓を形成し、chamberの中に足場(scaffold)となるよう紡糸したコラーゲンの線維を留置した。その結果、出血しにくい血管芽が伸展し、血管新生は良好に進行した。また、血管新生に伴って周囲の組織が形成された。足場としてスポンジ状のゼラチンを留置したところ、最初の1,2週間は血管新生は良好に進行したが、ゼラチンが溶解し、足場として機能しなくなると血管の伸展は滞った。生体内に材料を留置した後に組織が再生、あるいは再構築する事を期待するが、足場の細胞親和性、構造、持続期間に構築の過程が多分に影響を受けることが明らかになった。人工血管植え込み後に内膜が速やかに形成され再構築することを期待したが、細胞外環境一つをとっても多大な影響を与えており、詳細な検討が必要であることが示唆された。
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