研究概要 |
動脈瘤治療用のステントの最適設計のために,設計の評価基準を求めるための数値シミュレーションを行った。計算では嚢状の動脈瘤を対象とし,瘤首下の親動脈内にステントを挿入して瘤内の流れを低速化させた。これは瘤内壁に血栓を生じさせて瘤壁を硬化させ,瘤の成長と破裂を防ぐことを目的とする。計算結果より以下の結果が得られた。(1)瘤内の流れが最大となる時刻では,その流れは瘤首内上流側から瘤に流入し,瘤壁に沿って流れた後,瘤首内下流側から親動脈に流出する。(2)瘤内の圧力はほぼ一様化されるが,その圧力は動脈瘤内上流側と下流側の平均的圧力で時間的に変動する。(3)瘤内の流れの駆動源は,瘤首内上流側と下流側の圧力差,及び親動脈の境界層内の流れがステントに衝突して減速した後,その向きを軸方向から半径方向に変えて瘤内に流入する運動エネルギーである。(4)瘤内壁上の歪み速度を用いると血栓形成の判定が可能である。一方,ステント内挿の有効性を実際に確認するためには,ステント近傍および瘤内の流れを測定することが必要である。我々は血管内血流を測定可能な外径100μmのカテーテル型LDVセンサーを開発しているが,このセンサーを用いるとステント網目を超えて瘤内の血流速度の高精度測定が可能となる。そこでLDVセンサー回りの流れの数値解析を行い,センサーの存在が流速の測定誤差に与える影響を評価した。さらに,低速域では血液粘度が増大することが知られているが,これは低速域において血液を均質のニュートン流体と見なせないためである。したがって,ステントの効果を正確に評価するためには,赤血球の変形を考慮した血漿流れに対する連成問題を解き,血液レオロジーの正確なモデル化が必要である。そこでimmersed boundary法を用いて連成解析を効率的に実行する方法を提案し,数値シミュレーションによりその有効性を確認した。
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