広汎性発達障害(PDD)にみられる多彩な逸脱行動(あるいは行動障害)と称されるものがどのようにもたらされるのか、その成因にまで踏み込みながら検討し、その結果をもとに彼らに対する治療(あるいは援助)のあり方についても検討した。本テーマの検討にあたり筆者が理論的基盤としたのは関係発達臨床と称する視点である。従来の医学あるいは発達の発想の起点にあった個体能力障害あるいは個体能力発達に代わり、関係そのものを起点にした障害観あるいは発達観をもとに、行動上の問題をとらえ直していこうとする試みである。 第1には、行動あるいはその問題を関係性(コミュニケーション)の中でとらえ直すことによって、成因にまで踏み込みながら逸脱行動の成り立ちについて再検討を試みた。第2には、逸脱行動という臨床問題に対する関係発達支援のあり方の基本的考え方について論じた。第3には、逸脱行動の中で特に自傷を取り上げながら、その成因と治療(あるいは支援)について検討し、青年期・成人期に深刻な逸脱行動となっていくものが、発達的観点からみると、どのようにして生起してくるのかをとらえることによって、その成因と治療的あるいは予防的戦略を考えた。 最後に、このような逸脱行動という行動面の問題に幻惑されることなく、PDDの人々の背後にどのような心性が存在するのか、その精神病理学的検討を発達的観点から検討した。そこで得られた知見が従来統合失調症の基礎障害として取り上げられてきた『自明性の喪失』の問題に対してどのような発達論的意義をもつかを論じることによって、逸脱行動のみならず、PDDの基本的精神病理に迫ることによって治療予防的戦略の可能性を追求した。
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