本研究では、様々な刺激による生理状態の変化をリアルタイムで検出するために生体が発する極微弱光に注目した。この光はバイオフォトンと呼ばれ、その多くはミトコンドリアでの呼吸作用に伴って電子伝達系から漏れ出た電子が励起する活性酸素に因る化学発光である。一方、細菌感染や強い環境ストレスが加わった場合にも、そのストレスの強さに依存してバイオフォトンが放射される。そこで、環境ストレスとして乾燥ストレス、浸透圧および植食ストレスに注目して研究を進めた。乾燥ストレスは、水による浸透圧ストレスという点では我々が以前に研究した塩ストレスと同じものであるが、バイオフォトンの応答特性は異なっていることが分かった。また、乾燥した根に再度給水すると強いバイオフォトンが放射されることが分かった。この結果によって、ストレスによって異なる植物の生理状態を識別できることが分かった。さらに、スペクトル解析した結果、波長成分の時間変化にはストレスの種類や傷害の程度によって大きく異なることが分かった。浸透圧ストレスによる発光特性を調べた結果、ストレス印可時の発光強度が強いほど、ストレス緩和後の植物の生長が悪いという結果が得られた。特に、細胞分裂が盛んな分裂帯の発光強度と生長の阻害は個体差に関わらず強い相関を示し、特定部位の測定が有効であることが示唆された。また、植物の害虫であるハダニによる植食ストレスについてもバイオフォトンの出力特性を調べた。ハダニの食害による応答には害虫に消化不良を起こさせるタンパク質を生成する直接防衛と、天敵を呼び寄せる匂いを出す間接防衛があることが知られており、これらの防衛応答はハダニの口針から注入されるエリシターによって引き起こされることが知られている。バイオフォトンでは、エリシターによって誘起されたと考えられる発光が観測され、防衛応答をリアルタイムで検出することが出来た。
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