酢酸菌によるバクテリアセルロース(BC)生合成を炭素源としてリン酸化キチン及びそのオリゴマーを用いて行った。すでに明らかにしているように酢酸菌はN-アセチルグルコサミシ(GlcNAc)を炭素源としてGlcNAc残基を数%含有した多糖を生成すること、BC生合成においてグルコース(Glc)及びGlcNAcは代謝の最終段階においてリン酸化合物となるが6-P-GlcNAcの重合体がリン酸化キチンであることから本実験を行った。さらに、キチン化合物はリゾチーム等の酵素で加水分解されることから、重合体やオリゴマーのような高分子量体であっても酢酸菌に取り込まれることが期待される。 リン酸化キチンは様々なリン酸化度の分子量約12万のものを、リン酸化オリゴマーはそれをリゾチームで加水分解して分子量約6000のものを使用した。生成する多糖の収量は用いたキチンの分子量及びリン酸化度に大きく依存した。例えば、分子量、リン酸化度ともより小さいものほど高い収量であった。一方、多糖へのGlcNAc導入率はより低分子量でリン酸化度が高いものほど向上した。 糖の生合成の最終段階ではリン酸化された単糖がウリジン二リン酸-糖化合物(UDP-GlcやUDP-GlcNAcなど)に変換され多糖生合成酵素によって重合されることが知られている。上記実験で、リン酸化キチンを糖資源とすると収量が向上したことから、最終基質であるUDP-GlcやUDP-GlcNAcなどを用いればさらに収量の向上が期待できる。しかし、これらウリジン二リン酸-糖化合物の培地中の濃度は全く変化せず、酢酸菌の細胞膜を透過することができないため取り込まれていないことが判った。
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