本研究は、中東(北アフリカ諸国を含む)イスラーム諸国におけるマイクロクレジット(以下、MC)の普及と実践の状況、それに伴う貧困削減やジェンダー開発に関して、人類学的に比較・検討することを目的としたものである。前半の平成14〜15年には、北アフリカ諸国チュニジア、モロッコ、アルジェリア、モーリタニアで調査を行い、まず各国のMC法やMC融資政策に関する比較検討を行った。また実際のMC融資機関である銀行やNGOなどの幾つかを選定し、現場で活動する融資スタッフやMC受益者を対象として参与観察やアンケートによる聞き取り調査を行った。 これらの調査により、先ず同じくMCという名称であっても、融資条件や手法、実践過程が実に多様であること、また成功例ばかりでなく、多くの失敗例がみられることが明らかとなった。それを踏まえ、後半の平成16〜17年には、特に融資実践で多くの困難を抱えているアルジェリアにおいて、失敗の要因解明や融資過程の改善に関して調査研究を行った。この間、中東・アフリカ地域MCサミットやアジア太平洋地域MCサミットにも出席し、MCの国際的実施状況に関する情報・資料なども収集し、そのなかで調査各国の事例の相対的な把握に努めた。各国の比較考察からは、モロッコとチュニジアではMC融資実践にあたり、NGOが介在し、丁寧なサービスとある程度の利率によってかなりの成果を収めているのに対し、アルジェリアでは官製プログラムのため、一切の市民組織が介在しておらず、融資過程も煩雑で非効率的であることなどが判明した。この4年間の研究プロジェクトでは北アフリカ諸国での調査研究で終わってしまったが、各国のMCの普及・実践状況とジェンダー面をも含めたその特徴などを明らかにし得た点と、また失敗要因を解明できた点などでは充分新しい研究成果と学術的知見が得られたものと判断している。
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