ジェンダーレジームをキー概念としつつ、産業組織の労働のあり方、規制改革を含む福祉国家改革の実情に焦点をあてて「ニューエコノミー」の実相の国際比較分析を行うプロジェクトの中に、本研究は位置づけられる。文献購読や海外共同研究者とのワークショップを通じて、日本に限らず、米国や英国等諸外国においても、介護労働者の大多数が中高年女性であり、またその職業的地位や労働条件が介護従事者のジェンダーと深く関わっていることを確認した。日本においても、訪問介護サービスは創設当初から現在にいたるまでその労働供給の中心は家庭の主婦であり、期待されたのはその家庭での家事や育児の経験である。職業としての介護職の確立は未だ発展途上にある。本研究では、介護職の専門性や専門的技能とは何かを中心課題に置き、聞き取り調査やアンケート調査を実施した。その結果、介護労働者の専門性を捉える際のキーワードが、「個別性」と「感情労働」にあることをつきとめた。介護労働に必要なスキルは、家事支援や身体介護、そして痴呆介護等、直接的なスキルだけではなく、自身や利用者の感情や立場を理解しそれを実践に反映させるスキル、またメッセージの伝達や行動説明、解決策の提案、利用者の説得などに必要なコミュニケーションスキル、ネガティブな感情を抑えヘルパーとして適切な感情を維持するスキル、さらには利用者のニーズ把握などサービス提供の場の設定のスキルも重要であることが判明した。またこれらのスキルは必ずしも経験と共に伸びるわけではなく、また資格とも必ずしも連動しておらず、むしろ現場での個々のヘルパーの学習能力や、その所属する組織におけるスキルアップ促進の取り組みや、ヘルパー自身のエンパワメントを促す組織風土、および困難事例や良い事例を共有し改善点を定期的に話し合うなど組織学習の取り組み等から影響を受けることがわかった。
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