【目的】 家計資産は、制度上は家族の財産ではなく、個人の財産である。相続は、家の財産(家産)の継承ではなく、個人の自己名義財産の移転である。財産を個人別化して捉え、性別による家計資産所有格差の実態と、世代間および世代内の資産移転が格差を形成する過程、及び性別による資産所有・処分意識の差異を解明した。あわせて、相続税・贈与税の影響や、財の移転と価値観の伝達の関連を検討した。 【方法】 既存の調査研究の再検討 対象とした主な調査研究 1)東京女性財団調査(1998)東京在住 妻調査457人、夫調査332人 2)経済政策研究所調査 (1)(1987)691人 (2)(1988)首都圏807人 (3)(1991)首都圏563人福岡563人山形652人 3)農村生活総合研究センター調査(2002)全国1165人 【結果】 妻と夫には資産所有格差がある。金融資産よりも不動産において顕著な資産格差がみられる。男性優位を決定する主な原因は無償労働従事の女性への偏りであるが、家族内の土地所有に関する意識により相続における不動産移転が男性に集中していることも、資産格差発生の原因となっている。 農家においては、農地・宅地・家屋という3種類の不動産所有で圧倒的な男女の資産所有格差が存在する。なかでも経営主世代男性には購入した農地も親から相続した農地でも処分可能という意識が見られるが、女性は処分不可意識が強い。農地処分可能性意識が大きく転換しつつある。また、女性農業者の生活設計意識には、個人資産・家産をこえる共同選択的共有資産意識の萌芽がみられた。 相続税・贈与税など社会制度は資産移転を左右しているが、相続時精算課税制度を例に、ジェンダー視点の欠如が生み出す問題を推察した。 【考察】 資産所有には根強い格差があり、社会制度もそれを助長する傾向にあるが、相続や資産処分意識の変化の方向には、従来の家族と社会という枠組みや世代を超えた生活の理念と財の共有の可能性が見られた。
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