研究課題
基盤研究(C)
出生前検査の社会的・文化的課題を検討するために、最近の妊娠経験のある女性を対象に質問紙調査と聞き取り調査を実施した。質問紙調査は東京都内において900通配布、無記名郵送法によって回収し、382通が返信され(回収率42.4%)、有効回答375通だった。聞き取り調査は26名に実施した。ほぼ全員が超音波検査を受け、妊娠の不安を解消できたとうけとめていた。ただ、検査目的等の説明を受けたのは24%にすぎず、検査によって見つかった軽微な異常によっても不安が引き起こされること、経膣超音波については多くの妊婦が不快感を述べたことなどを指摘した。聞き取り調査では、また胎児の異常を発見するための3D超音波受診の意思決定過程を検討した。母体血清マーカー検査の認知度は低かったが、受検者と非受検者の経験を質問紙調査から把握し、聞き取り調査から意思決定過程を検討した。医師からの情報提供、夫との相談、友人・雑誌等からの情報、障害についての情報と意識・経験などについて貴重な知見が得られた。羊水検査受診者は質問紙調査では24名、聞き取り調査では2名と少なかったが、質問紙の自由記述欄に受診理由や結果が詳しく記述され、意思決定要因が把握でき、聞き取り調査にて補った。これらの検査では、受検した人のほとんどは医療者から詳しい説明を受け、受検を自分たちで決めたと述べたが、受検しなかった人たちは、医師が説明しなかったことを「自分は検査を受けなくても良い」と解釈し、医師が決定したと説明することが少なくなかった。出生前検査の実情に加えて、妊娠初期の超音波検査は「赤ちゃん」に「会える」時であり、妊婦に「いのち」を知覚させる装置であることを指摘し、生命観・胎児観など今後の文化・社会変容の検討の基礎資料ともなる貴重な資料が得られた。
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