本研究は、日本における近代以降の天皇/皇室の視覚表象について、特に今日の「天皇ご一家」像の歴史的変遷と機能を調査し、ジェンダーの視点から分析することを目的としている。平成14・15年度の二年にわたって調査を行ない次のような成果をあげた。 (1)正月紙面における天皇一族の登場を明治から今日までをたどり、それが1922年頃を画期として定着することを明らかにした。また、天皇や家族の図像の変遷を、明治以降の錦絵や石版画などの先行研究を参照して分析したほか、東京大学法学部附属近代日本法制史料センター「明治新聞雑誌文庫」所蔵の皇室関連の新聞附録を調査し、新聞紙面における「正月」空間の形成過程をたどった。大正末に天皇一家の図像が正月新聞に定着した理由を、産業構造の変化や家族制度の再編成、国際的な状況のなかから考察した。(2)15年戦争期の「戦争画」における天皇・皇后の視覚表象について、第2回大東亜戦争美術展を中心に調べ、「戦争画」というジャンルの構築過程について調査を開始した。(3)天皇とマッカーサーの第一回会見(1945年9月)に際して撮られた写真についての歴史的調査と図像学的分析および言説分析を行った。(4)植民地下での天皇像/天皇一家像の表象と機能についての解明を試みた。(5)皇室の生殖の表象について、近代以降の皇后・皇太子妃をめぐる言説分析を行なった。(6)現代の美術作品における天皇/天皇一家像の収集・分析した。 以上の研究成果を、研究代表者は「「天皇ご一家」の表象-歴史的変遷とジェンダーの政治学」としてまとめ、平成16年3月、東京大学総合文化研究科・超域文化科学・表象文化論研究室に博士論文として提出した。
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