日本でセクシュアル・ハラスメント問題への法的・制度的取り組みが行われるようになって数年が経過したが、とくに大学で、セクシュアル・ハラスメントのハラッサー(加害者)と目され、大学の責任部署により調査や処分を受けた者が、その認定に納得せず、処分に対する不服申し立てや逆告訴を行うなどして問題がさらに紛糾するケースが相次いでいる。そのことは問題の「解決」を遅らせ、多方面にさらなる難題を与えている。本研究では、裁判・不服審判の事例調査および大学における調査等を通じて、以下のことを明らかにした。 1)ハラッサーが不服を申し立てるケースは、大学におけるほうが、一般職場よりも有意に多い。 2)大学のハラッサーに不服申立をさせ事態を紛糾させうるのは、身分保障の厚さ、仕事内容の自立性、大学よりも学界に所属意識が強いこと、法的紛争を行うにあたっての知的資源に恵まれていることなど、大学教員の持つ特権的立場が有利に働いているといえる。しかしこのことは逆に、ハラッサーと目されれば大学教員という地位ゆえに社会的に失われるものが多大であるということでもあり、大学教員ハラッサーにとっては、処分に容易に服さず紛糾の道を選ぶのは、合理的選択でもあると言える。 3)大学の組織構造と、ケースの取り扱いのあり方が、紛糾を生み出す一因となっている点も見逃せない。すなわち、大学の教員組織にヒエラルキーが欠如しているため、問題の初発段階で管理者・上司が監督・介入を行って問題や紛糾を未然に防ぐというようなことが困難であること、また、委員会方式による問題への対処を行っているために、公正であるとしても、形式的・官僚的になりがちで、ハラッサーとの意思疎通がうまくとれていない。 4)紛糾するケースにおけるハラッサーには、家族、とくに妻の強力な支援が伴っているのがしばしば見受けられる。ある意味では、ハラッサーの闘争は、妻の闘争でもある。
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