本研究では、小型の重量式降水量を開発・検証し、異なる標高での降水量差を測定して気温変化による降雪/降雨率の標高依存性を明らかにする事を当初の目的とした。しかし、降水量計開発の遅れと運用を計画した平成15年度冬季が異常な暖冬で降雪頻度が極端に減少した。その為、重量式降水量計の開発に重点をおき、異なる標高での実測と気温依存性に関する解析は、実験施設の既存の気象観測要素と経験式から得られた2年間での積雪水量の特徴を明らかにすることに変更した。以下に概要を述べる。 A)圧力センサーにて降水量を測定するための基礎を理解するために、3段階で試作機を作成した。1号機では水位変動を及ぼす要素を断定し降雨測定を目指すと伴に、透明な受水タンクを採用して内部不凍液の挙動を明らかにした。2号機は排水機構も付加した実用的な雨量計を開発し、熱量実験により10-20Wのヒータとソーラーパネルで冬季運用が可能である事を示した。3号機では本体形状の根本的な改良を行い、プログラマブルなデータロガによる排水/不凍液追加およびヒータの制御機能を付加し、冬季連続運用が可能な新型小型重量式降水量計を開発した。 B)降水量計本体の開発と平衡して、降水量の補足率向上に必要なフェンスの構築および不凍液・蒸発防止用オイルの選定を行った。2重の足場パイプによるフェンスで風速は3割以下に低減され、10m/s以下の風速であれば十分降雪量が測定できた。蒸発防止用オイルには低温でも粘性が低下しないシリコンオイルが有用である。センサーの温度依存性によるノイズを減らすためには本体底面とセンサーとの断熱を施すことが重要である。 C)受水タンクを小型化し、周囲に不凍液追加タンクを装着した3号機では、太陽電池によるヒーティングと日中の不凍液タンク保温作用により、商用電電を利用しなくても滋賀県北部低地での冬季連続観測を実施することが可能となった。しかし、2日以上連続した豪雪ではタンク内に凍結作用が発生した。また、比較のために用いた温水式雨量計では融雪による時間差で時間単位の降水量を比較をする際に問題が生じた。"降水が不凍液上で分離する事"が今後解決しなければならない最も深刻な問題である。 D)滋賀県立大学集水域(余呉町)のデジタル標高データを作成した。2003年と2004年の冬季の気候の差を明らかにし、実験施設で定常的に測定されている降水量データ、異なる標高で観測された気温および標高データを利用して、積雪水量の算定を行った。経験的関数で規定される個体降水確率と融雪係数を用いたスキームは、実測積雪深変化を良く再現した。低温期ほど積雪水量の増加は降水量に依存し、一方で谷間の気温減率の逆転が高い標高域ほど積雪水量が減少する傾向を示した。降水量と気温の標高依存性を正確に把握する重要性が再認識された。
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