キツネノボタンの松山型、小樽型のサイトタイプが混生している大阪府三島郡島本町において52個体をトランセクト法によって各生育場所を地図上に記録し、それぞれ染色体を観察してサイトタイプを決定した。各個体の9酵素系から得られた16遺伝子座の酵素多型分析を行った結果、遺伝子座Mdh-3はそれぞれのサイトタイプに固有の対立遺伝子を示すこと、サイトタイプ間の雑種個体は両サイトタイプに固有の対立遺伝子をそれぞれ異型接合体として1つずつもっていることが明らかになった。このことは両サイトタイプ間でまれに雑種第1代が形成されるものの、戻し交配を起こしていないこと、遺伝的交流がほとんど起こっていないことを強く示唆する。酵素多型、ISSR(inter-simple sequence repeat)多型をもとに52個体の遺伝距離を計算し、デンドログラムを書くと、両サイトタイプはそれぞれ明瞭に別のクラスターに含まれ、両サイトタイプ間で遺伝的に分化していることを示した。 一方、鹿児島県、宮崎県でサイトタイプの分布を明らかにするために各地で20-30個体ずつのサンプリングを行った結果、松山型の集団を6ヵ所、唐津型の集団を3ヶ所で見出した。両サイトタイプはほぼ九州の脊梁山脈の東西に分布していたが、一部でややモザイク状に分布していることが分かった。それぞれの個体においてサイトタイプを決定し、9酵素系から得られた16遺伝子座について酵素多型を解析した。しかし現在のところ、両サイトタイプの接点、あるいは混生地を特定できるに至っていない。
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