研究概要 |
キツネノボタンの松山型,小樽型のサイトタイプが混生している大阪府三島郡島本町において52個体をトランセクト法によって各生育場所を地図上に記録し、それぞれ染色体を観察してサイトタイプを決定した.各個体の9酵素系から得られた16遺伝子座の酵素多型分析を行った結果、遺伝子座Mdh-3はそれぞれのサイトタイプに固有の対立遺伝子を示すこと、サイトタイプ間の雑種個体は両サイトタイプに固有の対立遺伝子をそれぞれ異型接合体として1つずつもっていることが明らかになった.このことは両サイトタイプ間でまれに雑種第1代が形成されるものの、戻し交配を起こしていないこと、遺伝的交流がほとんど起こっていないことを強く示唆する.酵素多型、ISSR(inter-simple sequence repeat)多型をもとに52個体の遺伝距離を計算し、デンドログラムを書くと、両サイトタイプはそれぞれ明瞭に別のクラスターに含まれ、両サイトタイプ間で遺伝的に分化していることを示した. 近畿地方以西の95集団において、それぞれの染色体型を決定し、遺伝的変異を調べた結果、全ての遺伝的変異の58%は集団間変異に偏在していた.また、F値が有意に大きく、集団の異型接合体頻度が非常に低かった.そして各集団間の地理的距離と遺伝距離とが全く相関しなかった.各集団間の遺伝距離(D)は平均0.129と大きく、集団間の遺伝的分化が大きかった.これらは本種が主に自家受精を行っているためである.しかし、染色体型間の遺伝距離は非常に小さかった(D=0.008).これは核型変異によって各染色体型が出現してから、各染色体型内で遺伝的変異が蓄積され、特有の遺伝的組成を形成するのに十分な時間が経過していないためと考えられる.
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