コケ植物(蘚苔類)は、陸上植物の中で唯一、生活史の大部分を半数体(配偶体)世代が占めている。その結果、突然変異による遺伝子の変化が隠蔽されることなく表現型として発現されるとともに、表現型に働く自然選択の力が(胞子体世代が優先する他の植物群に較べて)よりダイレクトに集団の遺伝子構成に変化をもたらす。以下の2つの課題について、形態形質、染色体数、アロザイム多型、遺伝子の塩基配列解析を手法として研究を行った。 1.蘚類における形質進化と種の多様化の解明 コケ植物では、他の陸上植物に較べて広域分布種が多数存在する。形態が類似するゆえに、地理的に遠く離れた集団が同一種に属すると判断されるのであるが、形態や核型などが均一であるにもかかわらず、連続的に広域に分布する種の集団内や集団問においてアロザイム多型が認められ、遺伝的レベルで集団間分化が生じていることが予想される。これを蘚類Dixonia属について研究し、広域分布種においても遺伝的には均質であることを示した。 2.苔類における形質進化と種分化の実体解明:倍数体形成が進化に果たす役割の究明 ケゼニゴケには同質倍数体起源のものと異質倍数体起源のものが存在することが、申請者らによるこれまでの研究から明らかとなってきた。同質倍数体はこれまでのところ、他の生育地から遠く隔離されたハワイ諸島からのみ見つかっている。 1倍体と異質性2・3倍体が混成する日本産ケゼニゴケ集団と、1倍体とその同質2倍体のみからなる台湾ケゼニゴケ集団、ならびにハワイ諸島ケゼニゴケ集団を遺伝子レベルで比較検討し、1倍体内に複数の種が存在していること、ハワイ諸島では同質倍数体化により、生育環境の拡大が起こっていることを示した。
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