対人サービスを提供する非営利組織に固有の課題としてアカウンタビリティジレンマに着目し、介護保険サービスを提供する全国のNPO法人1254団体に郵送法によるアンケート調査を実施し、688団体(54.9%)から有効回答を得た。また、最終年度に計画している組織レベルの調査に向け、パイロットスタデイとして、特別養護老人ホームを運営する施設長4人にインタビュー調査を実施した。 郵送調査では、組織運営上の方針に関する質問で得られた回答について因子分析を行った結果、「クライエントの利益尊重」「採算性重視」「シェア拡大重視」の3因子が抽出された。さらに因子分析にもとづいて各団体の因子得点を算出し、介護保険制度制定前より高齢者介護に関わる活動を行っていたNPO法人と介護保険後に活動を開始したNPO法人について比較したところ、「クライエントの利益尊重」「シェア拡大重視」では差は見られなかったものの、「採算性重視」の因子得点で有意差が検出された(p<0.00)。以上から、新しく活動を開始したNPO法人ほど「採算性重視」の傾向が強く、アカウンタビリテイジレンマのバランスのはかり方は変化しつつある様子が明らかとなった。 パイロットスタデイでは、介護保険が組織運営に与えた影響を把握するための次元を明らかにすることを目的に、質的研究法に基づくインタビューデータの分析を行った。その結果、現場ケアヘの影響は、「ケアの対象」「入居者との関係」「三大介護の比重」「職員に求められる技能」「歳入・歳出構造と人員配置」の視点から、組織的対応としては、「財政上の対応」「サービス向上の取り組み」「価値・理念」「職員のモラール維持・向上の取り組み」の視点から把握しうることがわかった。また、これら要因間の撹乱因子として、「施設長のバックグラウンド」と、介護保険後の体制について抱く「危機感の内容」があげられた。
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