研究課題
基盤研究(C)
本研究は、民営化後に経営者買収ないしは従業員買収によって従業員所有企業に再編されたイギリスの公益バス事業の分析を通じて、ポスト福祉国家におけるコミュニティサービスのあり方、雇用セーフティネットのあり方を考察することを目的とした。このような研究課題を設定したのは、福祉国家建設政策を断念した後の今日の先進諸国にほぼ共通してみられる現象が、市揚競争圧力緩和のために市民が工夫を凝らし自発的な相互扶助の組織や仕組みを形成していること、およびその勢力がサードセクターと呼ばれるまでに拡大してきているという認識をもとにしている。この認識を下に、市営バスから従業員買収を通じて従業員所有企業となったものの、5年後には営利企業に買収されてしまったチェスターフィールド市営バスの分析を行い、社会的排除問題やコミュニティへの貢献という視点が欠けると雇用確保の観点からのみ従業員買収が行われ、結果的に市場競争力を失ってしまい従業員所有企業としての存続かむずかしいことを発見した。次に、この視点を組み込んだ公益事業を担う事例を取り上げ、ハックニー・コミュニティトランスポートの調査分析を実施した。その結果、コミュニティへの貢献と雇用確保とを結び付けた新たな事業組織形態としての社会的企業という存在が明らかとなった。したがって次の課題はこの社会的企業の分析である。社会的企業を保護育成するための環境を整備する目的でイギリスでは「コミュニティの利益のための会社」(CIC)規則が制定され実施に移されたが、その内容にっいての検討をした。検討の結果、CIC規則にはチャリティ法との整合性や税の優遇の問題がなお残されていることが分かった。
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