前年度の研究によって、わが国の非営利組織(NPO)の大半が資金調達の問題をかかえており、現状では公共セクターや民間セクターによる支援が不可欠なことから、内部的には戦略経営システムの確立が、対外的にはディスクロージャー制度の充実が必要であり、両方の焦点が業績評価にあるという認識を得た。今年度の研究は、前年度の研究成果に基づいて、NPO会計の特徴を明らかにすることが課題であった。 業績評価の枠組としては、政府組織(営利を目的としないという点で共通性を有する)で用いられる有効性・効率性・経済性といった概念が、NPOにも適用可能である。有効性(使命ないし目標の達成度)では、NPOが多様な価値観を反映するため、必ずしも共通の成果尺度を設定する必要はないが、効率性および経済性では資源配分の合理性が問われることから、情報の比較可能性を確保するために会計基準を設定する必要がある。 わが国の非営利会計において最大の問題は、統一的な会計基準が存在しないことである。この点で注目すべきは、統一基準として定着することを期待して「公益法人会計基準(案)」(2003年3月)が公表されたことである。この案の特徴を一言でいえば、企業会計の理論と手法を積極的に導入したことであるが、学界ではこの立場への批判も根強い。見解の対立の根底には、NPOの性格をどのように理解するのか(生産経済体か消費経済体か)といった基本的認職の相違がある。そこで建設的な議論を行うためには、諸論点を整理した「概念枠組」が必要であるが、NPOを取り巻く環境の認識など学際的研究が必要な部分もある。本研究では、企業会計を中心とした従来の会計理論に欠けているものを明らかにすることができた。
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