本研究の目的は、筆者が開発してきた蛋白質の熱安定性変化の一連の計算手法(アミノ酸置換→分子動力学シミュレーション→自由エネルギー計算)を拡張して、核酸結合蛋白質と核酸との結合親和力変化の計算を可能にすることであった。また、それによって、核酸結合蛋白質が核酸塩基の種類を認識する分子機構を解明することであった。 目的を達成するために、まず、筆者の蛋白質のアミノ酸置換の手法を拡張して、核酸の塩基を置換することを単純な塩基について可能にした。更に、一般的な塩基間の置換を行うために必要な計算手順を、明確に示した。また、蛋白質と核酸との複合体は、一般に規模が大きく計算時間がかかるために、シミュレーションのプログラム(COSMOS90)の並列化による高速化を行った。 これらの一連の手法を開発することによって、DNA結合蛋白質(λ-repressor)が、DNAコンセンサス配列のチミンとウラシルを認識し分ける機構を解明した。これらの計算手法には任意パラメターが一切含まれていないために、核酸塩基の置換による結合自由エネルギー変化を予測することが原理的に可能になった。
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